ChatGPTが4000社の人的資本開示を徹底レビューした結果
ChatGPTによる4000社の人的資本開示の詳細分析
本レポートは、2023年度の有価証券報告書に記載された4,000社の人的資本開示情報をAIとコンサルタントがレビューし、その結果を公開しています。前回のレポートではAIと人間のスコアの差異を明らかにしましたが、今回は業界別のスコアを詳しく分析し、特定の業界で特に高いスコアを得た企業の特徴についても検討します。過去の分析結果に基づき日経225の企業の人的資本開示に関する情報も述べられています。
この記事の要約
- 4,000社の人的資本開示情報をAIと人間がスコア化。
- 業界別のスコアや高得点企業の特徴を分析。
- 過去のレポートでは日経225企業の開示スコアを紹介。
全体サマリ
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人的開示スコアで高い点数がついた主な業界は、銀行業・電気/ガス業・保険業で、低い点数がついた主な業界は、海空運業・サービス業・不動産業
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銀行業において最も高い点数となった代表企業は三井住友信託銀行であり、高度IT人財・グローバル・多様性など昨今注目されているテーマを押さえた、網羅性・具体性のある人事施策の開示が特徴
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医薬品業では、小野薬品工業が代表企業であるが、成長戦略と連動した人財充足方針の開示が特徴として見受けられた
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建設業においては、積水ハウスがトップランカーであるが、当社は、人的資本と並んで「人権尊重に関する取組み」の開示をしていることが最大の特徴
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食品業におけるトップランカーはカルビー。自社の課題から取組み施策を説明する文章構成となっており、直感的に理解しやすい上に戦略との連動性や独自性が見えやすい書き方になっている
本レポートの趣旨
本レポートでは、上場企業4,000社を対象に、2023年度有価証券報告書における人的資本の開示情報を、Chat GPT(AI)およびコンサルタント(人間)がスコア化し、結果を考察しています。
前回のレポートでは、AIと人間のスコア差異の原因と、ChatGPTを使った有価証券報告書のスコア付けの方法を紹介しました。今回のレポートでは、業界別のChatGPT(AI)スコアと、特定の業界で最高スコアを得た企業の特徴をご紹介します。
なお、過去レポートでは、日経225の企業における人的資本情報開示スコアや高得点企業の特徴などをご紹介していますので、ご覧ください。
第1回レポート:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000145475.html
第2回レポート:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000145475.html
第3回レポート:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000145475.html
本編
証券取引所共通の業界定義(業種分類)をもとにした業界別の人的資本情報開示の平均スコアは以下になりました。高得点がついた主な業界は銀行・電気/ガス・保険業で、低い点数がついた主な業界は海空運業・サービス業・不動産業です。今回は、開示内容に特徴がみられた業界のトップランカー(最高スコアを得た企業)に焦点を当て、その詳細を見ていきます。
【表1】業種分類別人的資本開示スコア平均(降順)
■ 銀行業におけるトップランカーの紹介
まず、高得点がついた銀行業におけるスコア帯は以下のような傾向となり、高いスコアの企業の割合が高いことがわかります。
【表2】各スコア帯の企業数(銀行業)
その中で最高得点(100点)を取得した代表的な企業は三井住友信託銀行でした。実際に当社の有価証券報告書に目を通してみると、人材育成やタレントマネジメントなどの人事施策をKPI含め網羅的かつ丁寧に記述されており、第2回のレポートでも触れたように、この取り組みについての具体的な記述が高得点に繋がっていることが見てとれます。取り組みテーマとしては、高度IT人材育成、ダイバーシティ、グローバル人材の輩出等が取り上げられていました。
【図1】三井住友信託銀行の人的資本関連の取組みとKPI
■ 医薬品業におけるトップランカーのご紹介
次に、医薬品業界を見てみます。スコアは、90~100点帯と69点以下帯に企業が集中している傾向が見られました。90~100点台には武田薬品工業や小野薬品工業などの大企業が占める割合が高く、69点台以下には小規模の創薬ベンチャー(グロース市場上場)が多い傾向となりました。
【表3】上位・下位企業群の平均スコア・従業員数比較(医薬品業)
トップランカー(スコア100点)となった小野薬品工業の有価証券報告書に目を通してみると、当社の4つの成長戦略(製品価値最大化・パイプライン強化とグローバル開発の加速・欧米自販の実現・事業ドメインの拡大)と、それを推進するための人財を明確に定義していることが特徴として見られます。全社横断的に必要な人財として4つの人財(次世代経営人財・グローバル人財・デジタル人財・イノベーション人財)が定義されています。これ自体は他社の有価証券報告書でも頻繁に取り上げられている人財ではありますが、成長戦略との連関がわかりやすく示されているという点では、非常に特徴的であると言えます。
【図2】小野薬品工業の成長戦略に資する人財プール
■ 建設業におけるトップランカーのご紹介
続いては、建設業の傾向を見ていきます。得点は、90点~100点帯と69点以下帯に企業が集中しており医薬品業と似た特徴がありつつも、その企業属性に特徴的な傾向は認められませんでした。
【表4】各スコア帯の企業数(建設業)
一方、トップランカーである積水ハウス(100点)の有価証券報告書に目を通してみると、自社の人的資本に対する取組みと並んで「人権尊重に関する取組み」を積極的に開示されています。これは、本業界においては、人的資本マネジメントにおいて非常に重要な要素であると考えられます。当社では、施工現場の安全衛生、外国人就労環境の整備、サプライチェーン上の労働課題対応等が記述されており、自社の人材だけでなく、協力会社等の人材も重要な資本と捉え、施策を積極的に整備・開示しようとする姿勢が伺えます。
【図3】積水ハウスの人権尊重に関する取組み
■ 食料品業におけるトップランカーのご紹介
最後に、食料品業の傾向をご紹介します。得点は90点~100点帯から69点以下帯まで分散しており、スコア自体に特徴的な傾向は認められませんでした。
【表5】各スコア帯の企業数(食品業)
トップランカーとしては、カルビーをご紹介します(スコア100点)。カルビーは、自社における人的資本の課題点を公表し、それらを解決するための施策を記載するという、いわゆる課題解決型のアプローチで開示を行っています。
本アプローチでは、課題点を明確化する際に必然的に経営との連動性を意識する(=経営に影響がある事柄が課題となるはずなので)ことになり、また課題が明確であるため、取組みの具体性や独自性が自ずと高まります。何より、問題解決ストーリーは人間が直感的に理解し易い話の流れであるため、非常に有効なアプローチと言えるでしょう。人的資本情報開示のストーリー作りに困っている場合は、是非参考にしたい1社と言えます。
なお、問題解決アプローチの元祖ともいえるトヨタ自動車(日経225)も同様のアプローチにて人的資本情報の開示を行っていますので、参考にすると良いでしょう。
なお、今回ご紹介した各業界のトップランカーは、積水ハウスを除いた全社が日経225以外の企業であり、当カテゴリ以外の企業においても参考にすべき開示を行っている良例が存在することがわかりました。
※日経225企業におけるトップランカーの開示内容は第2回レポートを参照
第2回レポート:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000145475.html
総括
今回は、業界別のChatGPT(AI)スコアのご紹介と、特定の業界で最高スコアを得た企業の開示内容をご紹介しました。本テーマによるレポートは次回が最終回となり、これまでの総括と次の取り組みについてご報告を行います。
著者情報
山岡もす(J.P.コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント)
SNSマーケティング会社での経営管理業務を経て、現在はJ.P.コンサルティング株式会社にて人事コンサルタントとして、人事制度設計および基幹システム構築に従事。ここ最近は、生成AIを通じた業務効率化支援にも注力している。
問い合わせ先
J.P.コンサルティング株式会社