シカの行動分析を革新するAI音声技術の開発成功

シカの行動分析を革新するAI音声技術の開発成功

AI音声技術がシカの行動分析を革新する研究成果

京都先端科学大学の研究グループが、シカの鳴き声をAIによって分析する新しい手法を開発しました。この技術は、音響セグメンテーションと機械学習を組み合わせ、鳴き声から行動を分析することで、短時間で効率的な評価が可能です。実証実験では、特に尾瀬国立公園や三重県での実施により、シカの鳴き声と農作物の被害との関連を特定するなど貴重な知見を得ることができました。この研究は、野生動物の保護管理と農作物の被害減少に寄与し、生物多様性の維持に貢献することが期待されています。

この記事の要約

  • シカの鳴き声をAIで分析する新手法が開発された。
  • 実証実験で鳴き声と農作物被害の関連が特定された。
  • 生物多様性の保護と農作物被害減少に貢献が期待される。
音響データの機械学習プロセスイメージ

発表のポイント:

◆安定した音響セグメンテーションと、機械学習による分類を組み合わせることで、野生動物の鳴き声から行動を効率的に短時間で評価することに成功しました。この手法は、自然環境への人的かく乱を最小限に抑えながら野生動物の保護管理を目指す、新しいフレームワークです。

◆尾瀬国立公園(湿原)と三重県多気郡多気町(農地)にて実証実験を行い、AIによる音声分析結果から防護柵の侵入箇所の特定や、シカの鳴き声と作物被害との関連など重要な発見につながりました。

◆シカの鳴き声の頻度やタイミング、間隔を分析することで、シカの行動パターンを把握することができ、農作物の被害減少に効果的な防護柵設置計画の策定や、生物多様性の保全への貢献が期待されます。


発表内容:

京都先端科学大学 工学部 沖 一雄 教授(兼:東京大学 生産技術研究所 特任教授)と、京都先端科学大学 工学部のサレム イブラヒム サレム 講師らによる研究グループは、シカの鳴き声を録音したデータに音響異常検出技術を導入し、機械学習させることで、高精度にシカの行動を観測する手法を開発しました。

環境計測において、音響記録は時空間モニタリングにかかせない方法ですが、ホワイトノイズや無関係な音が含まれている膨大な録音データから、シカの鳴き声のような特定の音だけを抽出する実用的な方法はありませんでした。本研究は、シカの鳴き声が含まれる長時間の録音データから異常を検出し、細分化する技術を導入し、特定の音響データのみを抽出・分析する新しい手法を確立することで、従来の手法に比べて機械学習効率の大幅な向上を実現しました。この新しい手法は、生態学的研究における高度な機械学習技術の方法論とその応用の両方において大きく貢献しています。

本研究の特徴は、シカの鳴き声の分析においてResNet50、MobileNetV2、EfficientNet-B2の3つの深層学習モデルを使用していることです。各モデルには、さまざまなハイパーパラメーター設定にわたって厳密なテストを実施していますが、本研究ではさらに、シカの鳴き声を判定するために、これらモデルを単独で使用せず、3つのモデルのうち少なくとも2つがシカが鳴いたと判断した時、音声クリップをシカの鳴き声として特定するという方法(コンセンサスベースのアンサンブルスコアリングシステム )をとることで、結果の信頼性と精度を高めています。

また、この手法は、自然環境への人為的かく乱を最小限に抑えることにも重点を置いています。モニタリングエリアでは、広範囲の音響記録を長時間、人が頻繁に立ち入ることなく行うことができ、また、それによって得られた膨大な録音データに本研究で開発した機械学習モデルを適用することにより、自然環境への影響を最低限に保ちつつ、多様な生息地からのシカの鳴き声の分類と解釈を、効率的に実施することに成功しました。

今回の研究では、尾瀬国立公園と三重県多気郡多気町にて、この手法を展開し、自然環境と都市環境でシカの鳴き方に顕著な違いがある事が明らかになりました。シカは、薄暗い時間帯に活動する生物ですが、頻繁に鳴く時間帯だけでなく、警戒や求愛のような異なる種類の鳴き声の持続時間と頻度も変化する事が分かりました。これは、シカが環境に適応したコミュニケーションをとるという複雑さを示しています。この生態学的情報は、さまざまな環境におけるシカの行動パターンを理解するために不可欠であり、保護管理と共生の取り組みに役立ちます。

 これらの発見は、野生動物管理と都市計画に直接応用することができ、シカと人間の共生、保護管理のための戦略を組み立てる枠組みとなります。さらには、生態学的研究において先進技術を使用する先例となり、生物多様性への理解と保全のための新たな道を切り拓くことが期待されます。

関連情報:

「プレスリリース【記者発表】“フィーヨフィーヨ”特徴的な鳴き声とドローン画像からシカの時空間分布を推定 ~環境を荒らさずに野生動物を調査~」(2021/01/28)

https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3470/

発表者・研究者等情報:                                       

京都先端科学大学 工学部

沖 一雄 教授

兼:東京大学 生産技術研究所 特任教授

京都先端科学大学 工学部

Salem Ibrahim Salem(サレム イブラヒム サレム) 講師

論文情報:

雑誌名:Ecological Informatics

題 名:Ensemble Deep Learning and Anomaly Detection Framework for Automatic Audio

Classification: Insights into Deer Vocalizations

著者名:Salem Ibrahim Salem*, Sakae Shirayama, Sho Shimazaki, and Kazuo Oki

DOI: 10.1016/j.ecoinf.2024.102883

URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1574954124004254  

研究助成:

本研究は、独立行政法人 環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20174006)、JSPS科研費(課題番号:22H00576)、および農林水産省を通じて農業・食品研究機構(NARO)からの部分的な資金提供により実施されました。

記事選定/ライター
NFT-TIMES 長尾英太

ブロックチェーン技術記者、長尾といいます。ブロックチェーンについては投資/投機的な観点よりも、技術として未来の社会でどのように取り込まれていくかを中心に発信したいです。最近ではNFTやメタバースなどに注目しています。 1989年11月7日千葉出身。大学卒業後IT企業に入社。2017年にブロックチェーンの技術ライターとして独立。 Twitter
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